「M(マニュアル)モード。なんだか想像だけでファビュラスなカップ焼きそばが世界基準になりそうですわ…」
放課後の屋上。空は夕焼けに染まり、冷たい風が吹いている。
「いいでしょう、やってやりますわ!」
私はカメラをマニュアルモードに変更し、夕日を背に立つ先輩に向かって、まずはF値を決めてシャッターを切った。カシャリ。
「真っ暗ですわ!」
モニターに写ったのは、ただの黒いシルエット。だが、今の私はただ喚くだけの素人ではない。
「ふふ、焦ることはありませんわ。暗いなら、光を取り込む時間を長くすればいいだけ。シャッタースピードを遅くしますわ!!」
ダイヤルをカチカチと回し、再びシャッターを切る。カシャリ。
「……む。まだ少し暗いですわね」
「ならばISO感度を上げるまで!」
カチカチカチッ。息を止め、静かにシャッターを切った。カシャリ。
出来上がった写真を見て、私は拍子抜けしたように瞬きをした。
茜色に燃える空。そして夕日を背に立つ先輩の黒いシルエット。
「……撮れましたわ」
オートモードは、カメラが「失敗しない平均点」を自動で算出してくれます。しかし、表現に妥協を許さない場面では、その平均点がかえって邪魔になることがあります。
- 被写界深度(ボケの深さ)
- ブレと軌跡(動きの表現)
- ノイズの許容範囲(画質)
これら三つの要素をカメラに委ねず、すべて自らの指先で決定すること。それがマニュアル露出を選択する最大の理由です。
マニュアル露出は必ず覚えるべき必須の知識ではありません。しかし、これまでに学んだカメラの仕組みを理解していれば、十分に使いこなすことができます。
設定の優先順位(ワークフロー)
マニュアル露出も、撮影モードを選んだ時と同様に被写体の動きから判断します。
- 被写体が静止している
- 絞り
- シャッタースピード
- ISO感度
- 被写体が動いている
- シャッタースピード
- 絞り
- ISO感度
最後にISO感度を100から徐々に上げて露出を調節します。
運用の最適解
マニュアル露出を、常に使う必要はありません。 それでは、写真はすぐに疲れるものになってしまいます。
多くの場面ではオート露出で十分対応できますし、設定に時間をかけてシャッターチャンスを逃しては意味がありません。
ただ、自動露出の限界を超える環境や、ストロボなどで自ら光をコントロールする場面では、マニュアル露出が最も確実な選択になります。
絞り、シャッタースピード、ISO感度。それぞれの意味を理解し、状況に応じてた制御ができれば、理想の1枚を撮ることができます。
楽しむために、肩の力を抜いた一枚をたくさん撮ることも大切です。 ただし、ここぞという瞬間に100点を出せる準備だけはしておくと良いでしょう。
激しい死闘になるかと思いきや、これまでに学んだ基礎を当てはめただけで、あっさりとマニュアルモードで撮れてしまった。
F値。シャッタースピード。ISO感度。カメラが決めた設定ではない。全て私が決めた写真だ。
「良い写真が撮れましたわ」
ドヤ顔でモニターを眺める私の隣で、先輩のカメラからシャッター音が鳴る。
どんな写真を撮ったのかしら。私は先輩のカメラのモニターをこっそり覗き込んだ。
「……え?」
そこにあったのは、見渡す限りの夕暮れの街並みでも、沈みゆく太陽でもなかった。
夕日を背景に、自分のカメラのモニターを満足気に眺めてドヤ顔をしている、私の姿が写っていたのだ。
空の色も、光のバランスも、構図の配置も、全てが計算されたように美しい。
「な、なんですの、これ……!!」
先輩は何も言わない。ただ、少しだけ気まずそうに夕日を見つめている。私は、ハッとして自分のカメラのモニターに視線を落とした。
(……お互いを撮っていた?)
動揺を隠すようにポツリとこぼすと、先輩がこちらを見た。
「な、何ですの?」
先輩の視線が私の手元のカメラに向いているのを感じて、私は写真を隠すようにカメラを胸に抱え込んだ。さっきまで余裕ぶっていたはずの心臓の音が、今は別の理由で、信じられないくらいうるさい。
「……絶対に見せませんわ」

姫のワガママ
要するに『優先順位』ですわ。
ブレないなら『F値』から。
ブレるなら『シャッタースピード』から。
『ISO感度』に頼るのは一番最後。
これだけでよろしくてよ!
焦点距離。ふふっ、つまり世間の注目をこのわたくしに集めるための、パーフェクトな距離感のことですわね!
……え?主人公が交代?わ、わたくしが主役じゃないんですの!?
ちょっと、レンズをわたくしから外さないでくださいましー!
僕とワガママ姫
「理屈」を「愛」に変える、10のレッスン
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