「ISO(アイエスオー)感度……?ふふ、先輩、わたくしを誰だと思っていますの?ずばり、『International Organization for Standardization(国際標準化機構)』のことですわね!」
少しばかり知的なジョークでからかってみせた私に、先輩は真っ直ぐな目で頷いた。
「……えっ?当たってますの!?なぜカメラにそんな国際機関が絡んでくるんですの!?」
まさかの大正解に狼狽する私に、先輩は呆れたように短く補足した。
「光に対する感度……? 相変わらず言葉足らずですわね!」
ぷいっと顔を背けたものの、その日は朝から雨だった。昼を過ぎる頃には雷まで鳴り始め、写真部の部室も薄暗くなっていた。
「今日は撮影には向きませんわね」
その瞬間、バチンという音と共に校舎の明かりが消えた。
「あら?停電かしら」
私は廊下へ出て、外の景色を見た。明かりを失った校舎は夕暮れのようにどんよりと暗く、青みがかった奇妙な影を落としている。
この、静まり返った薄暗い校舎の雰囲気……すごく絵になりそう。
カメラを構え、シャッターを切る。
「真っ暗……」もう一枚。やっぱり暗い。
「どうして明るく撮れませんの!?」
そのとき、先輩が私の手の上からカメラを握り、カチカチとダイヤルを回して手を離した。画面に表示されたISO感度の数字が上がっている。
試しにシャッターを押して、私はカメラを覗き込んだ。さっきよりずっと明るく撮れていた。
「わかりましたわ!上げれば明るくなる。実にシンプルですわね」
ISO(イソ/アイエスオー)感度とは、イメージセンサーが受けた光を、電気信号としてどれだけ増幅させるかを示す数値です。
絞りやシャッタースピードが「物理的」に光を取り入れる量を調節するのに対し、ISO感度は「電気的」に明るさを調節します。
ISO感度と画質の関係
絞り(F値)は「ボケ具合」、シャッタースピードは「動き」をコントロールしますが、ISO感度はそのような「見た目を劇的に変える効果」はありません。
そのため、露出コントロールの原則として「ISO感度は低ければ低いほど良い」とされています。
ISO100を基準とし、可能な限り低い数値で撮影するのが高画質への最短距離です。
ISO感度を上げるとノイズが出る
なぜ「ISO感度は低い方が高画質」なのか。それは、ISO感度は電気信号を無理やり増幅するからです。
その過程で、不要な電気信号の乱れ(ノイズ)が発生します。
ISO感度を上げると、明るさを得る代わりに、画質を差し出すというトレードオフの関係にあります。
- ISO100~800:
- ノイズが少ない
- ディテールまでクッキリと写る(高解像)
- ISO1600~3200:
- ノイズが出てくる
- モニターや印刷環境でノイズが見えてくる
- 高感度(機種によって変わる):
- ノイズが多い
- 本来の色味や繊細な質感が失われる
画質よりも大切なこと
理想は常にISO100ですが、現実はそう甘くありません。
- 高速シャッターで、一瞬を描写する
- 絞り込んで、隅々まで解像させたい
こうした表現上の要求によって物理的な光量が不足したとき、最後に頼るのがISO感度です。
画質の低下を許容してでも、求める描写を成立させるために感度を上げる。
それは、設定した絞りやシャッタースピードを維持し、意図した通りの一枚を確実に残すために必要な判断です。
ISO感度と光量の関係
絞りにはAモード、シャッタースピードにはS(Tv)モードがありますが、ISO感度を優先する撮影モードはありません。
撮影モードに合わせて、ISO感度を固定して残りの要素で露出を調整するか、ISO感度をオートにして残りの要素と組み合わせて調整するか、という形になります。
現代のカメラはISOオートが優秀です。ISOオートを使うと、撮影モードに応じて不足する光量を自動で補えます。
注意点として、過剰なISO感度に上がらないように、上限が6400程度に設定されているか確認しておきましょう。
ノイズの許容範囲を考える
ISO感度は、光が足りないときに、意図した表現を確実に残すための最後の手段です。
ISO感度は基本的に低い方が高画質ですが、光量が不足して表現したい一瞬を撮れない場合は、画質の低下を許容してISO感度を上げる判断も必要です。
重要なのは、「撮れること」を最優先に考えること。画質を守ろうとしてブレた写真になっては、本末転倒です。
- オートの上限を下げる
- 絞りを開く
- シャッタースピードを伸ばす
ノイズが気になるのなら、状況に応じて設定を見直し、画質との折り合いを考えましょう。
「それなら、ISO感度を最大まで引き上げれば……停電の暗闇すら、真昼のように明るく写るはずですわ!」
「待て!」という先輩の声が聞こえた気がしたが、私の耳には入らなかった。
私はダイヤルを限界まで回し、真っ暗な部室の隅に向かってシャッターを切った。カシャリ。
「ご覧あそばせ!暗闇がこんなに明るく……って、きゃああああっ!?」
モニターを見て、私は悲鳴を上げた。確かに部屋は明るく写っている。しかし、写真全体がひどい砂嵐のようなザラつき(ノイズ)に覆われていたのだ。
そして何より……そのザラついた画面の奥。
暗闇の中で棚の角に頭をぶつけ、額から鮮血を流しながら助けを求める男子生徒の姿が、ホラー映画のワンシーンのようにはっきりと写り込んでいたのである。
「ノ、ノイズと血のせいで、ただの不注意な生徒が怪異みたいに……!」
私はガタガタと震えながらISO感度とノイズの関係に戸惑う。
そして次の瞬間、あるアイディアが浮かんだ。
「ISO感度を下げたら、このザラザラしたノイズが消えて、綺麗な怪異が撮れるかしら?」

姫のワガママ
気軽に楽しむのなら、
ISOオートで十分ですわ。
ただし、上限の設定と、
下げる余地の確認は忘れずに。
いよいよカメラの完全制覇、M(マニュアル)モードのお時間ですわ!
F値、シャッタースピード、ISO感度……すべての黄金比率をこの一枚に込めて差し上げますわ!
わたくしの集大成にご期待あそばせ!
僕とワガママ姫
「理屈」を「愛」に変える、10のレッスン
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