第6話:ワガママ姫と絞り|彼女の瞳も、彼女の景色も。その加減は僕が決める

絞りとは、レンズを通過する光の量を調整する仕組みです。

しかし、絞りの役割はそれだけではありません。絞りは、写真の空間の見え方そのものを制御する装置です。

F値を変えるということは、

  • ピントの範囲(被写界深度)
  • レンズの性能の引き出し方

を決めることでもあります。

そのため、単純な明るさの調整とは違い、判断には意図が必要になります。

「騒がしい会場でも彼女には綺麗な佇まいでいてほしい。
 けれど、そのざわめきが彼女を引き立てるのも事実だ。
 どこまでなら“ちょうどいい”か。
 そのバランスは、僕が決める」

被写界深度のコントロール

被写界深度とは、ピントが合っているように見える範囲のことです。

厳密には、完全に合焦している範囲ではなく、「許容できるボケ量」に収まっている領域を指します。

  • F値を小さくする
    • 被写界深度は浅くなります
    • ピント面から少し外れただけで、大きくぼけます
  • F値を大きくする
    • 被写界深度は深くなります
    • 前後の情報がより多く残ります

例えば人物撮影では、F1.8では瞳に合わせると耳はぼけ、F8では顔全体が安定して描写します。

これは「ボケが強いか弱いか」の話ではありません。どこまでを写真に写すかの選択です。

レンズ性能のコントロール

絞りは、被写界深度だけでなく、レンズの描写にも影響します。

レンズは複数のガラス群で構成されており、開放では、レンズの中心部だけでなく周辺部の光線も使用します。

周辺部の光線は、収差の影響を受けやすく、解像度がわずかに甘くなります。そのため、多くのレンズでは開放付近で描写がやや甘くなります。

これは構造上の特性であり、不良ではありません。

レンズは、中心部ほど光学的に安定しています。

少し絞ると、レンズ中心部の光線が主体となり、コントラストが向上し、画質が安定します

一般的にF5.6〜F8付近で描写がピークに近づくことが多いのはこのためです。

絞りすぎによる回折

しかし、絞りすぎると回折が発生します。

開口が小さくなりすぎると、光は線ではなく波としての性質を強く示し、像が理論的に拡散します。

その結果、解像度はむしろ低下します。

絞れば良くなるわけではありません。

最適な領域が存在します。

実際に使うときの目安

  • F1.4-F2.8
    • 主題分離を最大化
    • ポートレート、物撮り
  • F4.0-F5.6
    • 解像と収差のバランスが安定
    • スナップ、日常記録
  • F8.0
    • 写真全体の安定描写
    • 風景、建築
  • F11
    • 回折リスクを理解した上で使用
    • 長時間露光、マクロ

ただし、これは絶対的な正解ではありません。被写体や距離、センサーサイズによって変化します。

絞りと光量との関係

なお、絞りを変えるとセンサーに届く光量も変化します。

Aモードでは、その変化に応じてシャッタースピードやISO感度(オートの場合)が自動的に調節されます。

Next Invitation

窓を少し開ければ、空気は穏やかに入る。
大きく開ければ、一気に部屋の温度が変わる。
いつも全開にする必要はない。
彼女が心地よくいられるところで、止めておくべきなんだ。

ワガママ姫と露出の三要素|彼女を輝かせるための三重奏(アンサンブル)

見せるものと、残すものを加減する

絞りは、単なる明るさの調整機構ではありません。

どこまでをはっきり見せるのか。どこからを曖昧にするのか。

空間の情報量を設計する装置です。

F値を小さくすれば背景はぼけますが、ピントの許容範囲は狭くなります。
F値を大きくすれば被写界深度が広くなりますが、立体感は穏やかになります。

さらに、レンズの描写特性や回折の影響も存在します。「絞れば正解」という単純な話ではありません。

だからこそ重要なのは、数値そのものではなく、

何を見せたいのかを先に決めることです。

絞りを選ぶということは、限られた条件の中で優先順位をつけるということです。

「全てを鮮明にすることが、正解とは限らない。
 少しだけ残す。少しだけ手放す。
 その加減が、彼女をいちばん美しく見せるんだ。
 ほら。騒がしい場所でも、キミはこんなに綺麗に輝いてる」
Next Invitation

キミの一瞬のまばたきも。 静寂の中で夜空を眺める、ひとときも。
ボクが刻むリズムひとつで、世界の見え方は変わる。
さて、次はどんな時間を、ボクに触れさせてくれるんだい?

僕とワガママプリンセス

「理屈」を「愛」に変える、10のレッスン

Prologue

ワガママ姫と僕|不器用な彼女と創る、最初の1枚

Lesson 1

ワガママ姫と撮影モード|P・A・S・M、どれで彼女と踊る?

Lesson 2

ワガママ姫と露出補正|明るい景色と、暗い彼女

Lesson 3

ワガママ姫とオートフォーカス|彼女の視線の導き方

Lesson 4

ワガママ姫と焦点距離|彼女が動けば、世界が動く

Lesson 5

ワガママ姫と露出の三要素|彼女を輝かせるための三重奏

Lesson 6

ワガママ姫と絞り|彼女の瞳も、彼女の景色も。その加減は僕が決める

Lesson 7

ワガママ姫とシャッタースピード(準備中)

Lesson 8

ワガママ姫とISO感度(準備中)

Lesson 9

ワガママ姫と不機嫌の正体(準備中)

Lesson10

ワガママ姫とマニュアル露出(準備中)

Epilogue

ワガママ姫とRAW現像(準備中)

僕とワガママプリンセス

「理屈」を「愛」に変える、10のレッスン

Pro

ワガママ姫と最初の1枚

L 1

ワガママ姫と撮影モード

L 2

ワガママ姫と露出補正

L 3

ワガママ姫とオートフォーカス

L 4

ワガママ姫と焦点距離

L 5

ワガママ姫と露出の三要素

L 6

ワガママ姫と絞り

L 7

ワガママ姫とシャッタースピード(準備中)

L 8

ワガママ姫とISO感度(準備中)

L 9

ワガママ姫と不機嫌の正体(準備中)

L10

ワガママ姫とマニュアル露出(準備中)

Epi

ワガママ姫とRAW現像(準備中)

いいから、カメラ持って外行こうぜ!

俺のデジモノ手記


01 思考の章

写真は、楽しければ良い


02 技術の章

カメラで、遊ぶ


03 表現の章

「誰か」の真似は、もう終わり


04 結実の章

今の僕の答え


付録

使用機材とカメラ設定