第5話:ワガママ姫と露出の三要素|極上の一杯を求めて

「なによ。カメラなんて、このボタンを押すだけじゃない。簡単ですわね」

全寮制の由緒正しき学び舎から、この下界(一般校)へ降り立った私。手元には、お父様に買ってもらった最新の高級カメラと、大砲のように立派な高級レンズ。

「いくら機械が複雑だろうと、わたくしの美貌とセンスの前ではただの箱ですわ」

オートモードでシャッターボタンを押しさえすれば、綺麗な写真が撮れてしまう。

「ふふっ、わたくしってば天才カメラマンかもしれませんわ!」

すっかりいい気になっていた私。でも、新入生歓迎の部活動見学で、写真部の展示ブースに飾られていた『先輩』の作品を見た瞬間、頭に雷が落ちたような衝撃が走った。

(な、なんですの、この写真は……!)

斜陽を浴びる淋しげな校舎。きらめく汗を流す陸上部。香りまで感じそうな茶道部の緑茶。見たことがあるはずの学校の風景なのに、私ののっぺりとした写真とは、奥行きも空気感もまるで違う。

「わたくしの最新高級カメラより、先輩の古めかしいカメラの方が綺麗に撮れるなんて……機材の値段の差ではありませんの!?」

驚愕してパネルにへばりつく私に、ブースの番をしていた写真部の部員がおずおずと声をかけてきた。

「露出のコントロール……?つまり、被写体の肌の露出度合を上げて読者の目を惹きつけるという、いかがわしいテクニックですの!?」

「えっ!?い、いや、そういうわけじゃ……!」

私の見当違いな推理に、部員が慌てふためいていたその時。背後から足音がした。振り返ると、そこには無表情な先輩の姿があった。

先輩は部員の前にズイッと出ると、私を見て深々と、音もなくため息をついた。そして呆れたように無言のままスッと手を伸ばし、ブースの壁に貼られた手書きの解説パネルを指先でトントン、と示した。

そこには、太字でこう書かれていた。

『露出は【F値】【シャッタースピード】【ISO感度】3つの要素のバランスで決まる』

写真の明るさを決める「三つの要素」

F値(絞り) —— 光が通る面積

レンズの中にある「絞り羽根」をどれくらい開くかを決めます。

  • 数値が小さい(開放)
    • 絞り羽根が広がり、光を取り込む量が増える
    • 背景や前景が大きくボケる
  • 数値が大きい(絞り込み)
    • 絞り羽根が狭くなり、光を取り込む量が減る
    • ボケにくくなり、全体がくっきり写る

シャッタースピード(SS) —— 光が通る時間

シャッターが開き、センサーに光を当てている時間の長さです。

  • 高速シャッター
    • 一瞬でシャッターが閉じる
    • 動きを止める
  • 低速シャッター
    • 時間をかけて光を蓄える
    • 動きを残す

ISO感度 —— 光に対する感度

センサーが受け取った光を、電気的にどれだけ増幅させるかを示す数値です。

  • 低感度
    • 暗い
    • ノイズが少なく高品質
  • 高感度
    • 明るい
    • ノイズが発生し、画質が落ちる

三つの数字を繋ぐもの

F値、SS、ISO。この3つの数字をバラバラに考えるのではなく、一つの「明るさ」という結果に向かって組み立てていきます。

三つすべてを同時に操作しようとする必要はありません。

優先したい要素から順番に選ぶだけです。その判断が、写真の印象を決定づけます。

エフチ……?シャッター……?感度?聞き慣れない横文字の羅列に、私の頭脳がフル回転する。つまり、この三つが絶妙なバランスで絡み合い、極上の一枚を生み出すということ…… 。

「――理解しましたわ!」私はポンッと手を打った。

「それは庶民の愛するファストフード『牛丼』における、『肉・玉ねぎ・つゆ』の黄金比率のようなものですわね!」

「『肉だく』にしてお肉を増やしたら、その分『つゆ』で全体の味のバランスを調整しなければならない……。三位一体のハーモニーが、極上の一杯を作り上げるのですわ!」

無表情のまま微動だにせず固まった先輩と、ぽかんと口を開ける部員を横目に、私は意気込む。

「いいでしょう、その『カメラの黄金比率』、このわたくしが完璧にマスターして差し上げますわ!」

姫のワガママ

難しく考える必要はありませんわ。
どれかを足せば、どれかを引く。
何を足し、何を引くのかが、

表現に繋がるのですわ

次回予告

「F値」……つまりわたくしの魅力を引き立てる「ファビュラス値」のことですわね!?
背景なんてドロドロに溶かして、主役であるこのわたくしだけを際立たせて差し上げますわ!

第6話:ワガママ姫と絞り|正義のファビュラス

いいから、カメラ持って外行こうぜ!

俺のデジモノ手記


01 思考の章

写真は、楽しければ良い


02 技術の章

カメラで、遊ぶ


03 表現の章

「誰か」の真似は、もう終わり


04 結実の章

今の僕の答え


付録

使用機材とカメラ設定