コダック(Eastman Kodak)は、1888年にジョージ・イーストマンによって創業されたアメリカの企業で、写真フィルムやカメラの製造で世界をリードしました。
「ボタンを押すだけ、あとは私たちにお任せください(You press the button, we do the rest)」というキャッチコピーとともに、写真撮影を一般家庭に普及させた立役者です。
コダックのビジネスモデルは、カメラ本体を安価で提供し、フィルム販売や現像サービスで収益を上げる戦略で、多くの家庭が写真撮影を楽しめる環境を整えました。一時期、同社は世界のフィルム市場で80%以上のシェアを誇り、圧倒的なリーダー企業として知られていました。
コダックはまた、技術革新でも多くの功績を残しています。例えば、世界初のカラーフィルム「コダクローム」や、低価格の家庭用カメラ「ブローニー」は、一般家庭での写真撮影を一層身近にしました。これらの製品は、写真撮影を専門家だけでなく一般消費者に広める原動力となりました。
意味その1: 写真を収めたくなる その瞬間
「コダックモーメント」とは、広告キャンペーンの中で生まれた言葉で、思い出に残る感動的な瞬間を象徴しています。この言葉は特に1980年代から1990年代にかけての広告戦略で広まりました。
家族が集う温かな団らん、子どもの成長の一瞬、大自然の美しい風景など、「コダックモーメント」は特別な瞬間を写真に残す重要性を訴えるものでした。この言葉は、写真を撮る行為を超えて、私たちの心に残る体験そのものを指すようになりました。
コダックの広告では、視覚的に強く印象付けるビジュアルとともに、「コダックモーメント」というフレーズを使い、**「今この瞬間を逃さない」**というメッセージを伝えました。このフレーズは、感動的な場面を写真に収めたいという思いを呼び起こし、コダックブランドの普遍的な価値を確立する役割を果たしました。
意味その2: 市場が変化する その瞬間
「コダックモーメント」という言葉は、時としてビジネスの失敗を象徴するフレーズとしても使われます。
1975年、コダックのエンジニアは世界初のデジタルカメラを開発しました。しかし、コダックはフィルム事業への依存が強く、デジタル化が収益を脅かすと判断して技術の活用を躊躇しました。その結果、デジタルカメラ市場の主導権を他社に奪われ、業界の変化に対応できなくなりました。
さらに、SNSやクラウドストレージといった新しい技術への対応も遅れ、消費者との接点を失っていきました。
最終的に、コダックは2012年に破産を申請。「コダックモーメント」は、市場の変化に適応できず衰退する企業の教訓として語られるようになったのです。
成功企業 富士フイルムの対応策
コダックと対照的に、富士フイルムはフィルム市場の縮小を見越して事業の多角化を進めました。
これまでに培った化学やフィルムの技術を活かし、医療機器や化粧品、新素材の開発など、新しい収益源の確立に成功しました。
例えば、フィルム技術を応用して開発された医療画像処理システムや、スキンケアブランド「アスタリフト」は、富士フイルムが市場の変化に対応した成功事例です。また、社内のビジョンを大胆に転換し、社員全員が新たな挑戦を共有した点も成功の大きな要因でした。
このように、富士フイルムの柔軟な戦略は、コダックの失敗と鮮やかな対比を成しています。
富士フイルム以外の歴史についても紹介しています。